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ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違い・注目の背景・メリット・デメリット【事例付き】

2007
ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違い・注目の背景・メリット・デメリット【事例付き】

新型コロナウイルスの流行により、テレワークやフレックスタイム制といった働き方の多様化が急速に進みました。

その中で業務の振り分けやコミュニケーションに難しさを感じ、人事制度ひいては雇用形態の改善を考えている企業も多いのではないでしょうか。

また、内閣府の規制改革推進会議は、2019年に「ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見」を発表しました。

参考:内閣府 規制改革推進会議 議事次第 第45回規制改革推進会議 2. ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見について(https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20190520/190520honkaigi02.pdf

このような事実から、雇用制度に関する改革の動きは国レベルで促進されるべきとされるていることがうかがえます。

本記事では、その中で注目を集める「ジョブ型」について、その定義や注目の背景、メリット・デメリット、「メンバーシップ型」との違い、導入事例を解説していきます。

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、企業があらかじめ職務を定義した職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づいて人材を確保し、職務に対する成果を主に評価する雇用制度のことです。

現在はあまりその普及率の高くないジョブ型ですが、戦後高度経済成長期までは日本の雇用形態はジョブ型でした。

しかし、職務に人を結びつけているがゆえの解雇リスクや雇用の不安定さ、生産人口の多さなどから高度経済成長期に現在多く導入されているメンバーシップ型への移行が進んだのです。

ジョブ型雇用への注目の背景

前述のように定義されるジョブ型雇用は、どのような背景をもって注目されるようになったのでしょうか。

本パートではその背景について、4つに分けて解説していきます。

1. 経団連会長の提言

経団連第5代会長の中西宏明氏は、「1つの会社で長くキャリアを積んでいく日本型の雇用を見直していく方がいいだろう」と話し、従来のメンバーシップ型からの移行を提言しました。

これがジョブ型雇用への注目の要因の一つとなっています。

この提言の思惑としては以下の2つが考えられます。

  • 学生の即戦力化という大学への要望
  • 年功序列賃金制度から一定の職務をピックアップして報酬を明確にすることで優秀な若手を採用できるようにしたい
  • 生産性の低い中高年層の解雇・賃金引下げ・処遇変更を可能としたい

2. 国際競争力向上の必要性

スイスのビジネススクールであるIMDが発表した「世界競争力ランキング2020」では34位となっているように、1989年には世界1位であった日本の国際競争力は大きく下がっています。

そこで国際競争力を再び取り戻すために、個々の社員の専門性を高めて会社全体のスキルをアップさせるという点で、ジョブ型雇用への注目が集まっています。

3. 働き方の多様化

メンバーシップ型雇用が一般的な日本では、出社して業務にあたり、その時間に応じて給与を支払うという考えが主流でした。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークやフレックスタイムといった多様な働き方が求められるようになり、従業員を時間ベースで管理・評価することが難しくなっています。

そこで、仕事の内容や評価基準を細かく定義し、場所にとらわれずにその成果によって評価や給与を決定するため、多様な働きを尊重する観点でジョブ型雇用への注目が集まっているのです。

4. ITの普及による業務の細分化・複雑化

ITの普及により、今まで人間が担当していた業務をコンピューターが行えるようになり、人間の担当する業務の範囲が縮小するようになりました。

しかし、それと同時にその範囲の中で求められる業務のレベルが上がり、業務の専門性の高さや複雑さが増しています

ところが、メンバーシップ型では様々なスキルを習得させて長期間で人材を育成していくため、その高度な専門性に対応できません。

そこで、高度な専門性を高めることに適したジョブ型雇用の注目が高まっているのです。

ジョブ型雇用のメリット

前述のような背景を持ち、現在注目されているジョブ型雇用ですが、実際には導入した企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

ここでは5つに分けてジョブ型雇用のメリットを解説していきます

1. スペシャリストを採用・育成しやすい

ジョブ型雇用では、専門性の高い人材に限定して募集したり、既存の人材に対して専門性を高めるアプローチがとりやすいということが1つめのメリットとして挙げられます。

ジョブ型雇用では、職務記述書(ジョブディスクリプション)によって社員の担当する業務範囲を限定的にします。そのため、採用においては求める専門性の基準を満たした社員に絞って採用することが可能です。

また、育成においては業務範囲の限定によって該当範囲における専門性が高まり、結果としてメンバーシップ型をとった場合よりも分野に精通し、同時に技術力のある社員を育成することができるのです。

さらに、専門性の高い社員を多く採用・育成して戦力とすることで、企業全体で見たときにあらゆる分野においてのスキルが高い状態にあり、競争力を高くすることができます。

2. 求職者と業務内容のミスマッチが起きにくい

2つめに、ジョブ型雇用では採用の後に入社した社員の期待とその社員が実際に担当する業務内容との間に齟齬が生じにくいということがメリットとして挙げられます。

ジョブ型雇用では、採用において社員の担当する業務の詳細を明示して募集を行うため、求職者が事前に想定していた業務内容と異なる業務にあたることは起こりえません。

また、企業側としても担当させる業務のレベルを明示して募集を行うため、採用後に期待するレベルを下回るということも起こりにくいといえます。

求職者と業務内容のミスマッチが起こらないことで、離職率を下げることができ、外部からの企業の評価がよくなるだけでなく、社員のエンゲージメントも高まり、優秀な人材が離れにくくなるという良い影響が生まれます。

3. 公平な評価がしやすい

3つめに、社員の評価において、適切かつ公平な評価を行えるというメリットが挙げられます。

ジョブ型雇用では、あいまいな評価基準ではなく定められた職務に対する成果に評価を行うため、公平性・客観性のある評価が行えます。

社員の担当する業務に対して適切な評価を行うことで、社員のモチベーションが高まり、生産性の向上が期待できます

4. スキルや能力のある若手が活躍できる

4つめに、企業全体としてスキルや能力のある若手が無条件に活躍できるということがメリットとして挙げられます。

ジョブ型雇用では、担当する業務の難易度や成果によって給与や処遇が変わるため、年齢に関係なく高収入を得ることができます。

これをモチベーションとして、若手であっても成果を評価されて重要な仕事につくことができるのです。

その結果、年齢にかかわらず評価されることからベテランも成果を出すことが最重要とされ、会社全体として成果を上げる、すなわち業績を伸ばすことができます。

5. 業務の効率化につながる

5つめに、それぞれの業務の遂行において効率化ができるということがメリットとして挙げられます。

ジョブ型雇用では、それぞれの社員に任される業務内容やその責任の範囲が明確になります。

そのため、責任の所在があいまいな業務に時間をとられるということが減り、結果として業務の効率化につながります。

業務の効率化が集積することにより、企業全体として生産性が上がると同時に、社内で求められるレベルが上がり、さらなる効率化・生産性の向上につながるのです。

ジョブ型雇用のデメリット

前述のようなメリットがあるジョブ型雇用は、同時にデメリットもあります。

ここでは4点に分けてジョブ型雇用のデメリットを解説していきます

1. 会社都合での人事異動ができない

1つめのデメリットとして、ポスト不足などにより社員を会社都合で異動させることができないということが挙げられます。

ジョブ型雇用では、職務を厳格に定義し、各社員の担当する範囲を限定するため、基本的に職務記述書(ジョブディスクリプション)にない仕事を任せることができません。

また、その職務が不要になった場合は社員を解雇することが一般的で、人材の配置がえを行うことは難しいのです

そのため、全社的には柔軟性のある経営はできず、ポストが空いたり新たな職務が発生した場合には外部から採用する必要があるのです。

2. 明確な規則を設けないとトラブルが起きる可能性がある

2つめのデメリットとして、給与や評価だけでなく、業務にあたっての細かいルールを設定しないと、社員同士あるいは社員と会社の間でのトラブルが発生しかねないということが挙げられます。

ジョブ型とする最低条件として職務記述書の作成が挙げられますが、それだけでは実際の運用上境界をまたいだ業務やその判断が難しい業務が出てきたときに対応できない可能性があります。

社員同士あるいは社員と企業の間でのトラブルが積み重なると、優秀な社員が離職や、モチベーション低下による生産性の低下といった悪影響が起こりえます。

3. スキルアップはできても昇格が難しい

3つめのデメリットとして、各社員はスキルアップが確実にできるものの、昇格に関しては不確実性が高いということが挙げられます。

ジョブ型雇用では、専門性をもって同一業務に取り組み続けるためにある分野のスキルや能力を高めることが可能です。その一方で、その分野においてポストがあかなければ役職に就くことが難しく、社内で高い職位を目指すことが難しくなります。

その結果、能力やスキルがあってもポストが空かないことから優秀な社員がヘッドハントされるなど離職のリスクが高まってしまうのです。

4. 組織への帰属感やチームワークを育みにくい

4つめのデメリットとして、社員の会社に対するエンゲージメントや、社内のチームワークを高めにくいということが挙げられます。

ジョブ型雇用では、社員は組織ではなく与えられた職務に対してコミットしているために、組織への帰属感や忠誠心は比較的低くなってしまいます。

その結果、優秀な人材が流出してしまい、企業の業績が伸び悩んでしまうのです。

メンバーシップ型雇用との違い

上のようなメリット・デメリットをもつジョブ型雇用ですが、その対をなす概念としてメンバーシップ型雇用があります。

メンバーシップ型雇用は現在日本で広く用いられている雇用形態で、人に仕事を結び付ける形をとります。

では、具体的にジョブ型とメンバーシップ型はどこが違うのでしょうか。ここでは5つに分けて解説していきます。

1. 仕事内容:専門性が高く、限定的

1つめの違いとして、仕事内容の違いが挙げられます。

メンバーシップ型では、ジョブローテーションによってさまざまな業務を担当し、社内業務一般のスキルを高めるために、仕事の内容は専門性が低く汎用性が高いものとなっています。

それに対し、ジョブ型では限定された業務のみを担当するために、専門性が高く、かつ限定的な範囲の仕事内容となります。

2. キャリア:会社都合の転勤や異動はないが、離職が多い

2つめの違いとして、一般的なキャリアステップが挙げられます。

メンバーシップ型では、長期的な人材育成の観点から一つの企業に長く勤めることを前提とします。

それに対し、ジョブ型ではその職務に紐づいて雇用契約がされているために本人の意思と関係なく業務の内容が変わることは基本的にありません

しかし、職務の必要がなくなったり、その優秀さから他の企業から声がかかった時に転職を含む離職が起こりやすいことがいえます。

3. 評価:業務と成果に紐づいた評価基準

3つめの違いとして、評価の対象や基準が挙げられます。

メンバーシップ型では、仕事への取り組む姿勢など上司の裁量で評価が決まるケースが少なからずあり、その全社的な標準化がむずかしいとされています。

それに対しジョブ型では、業務と成果に基づいて評価が決まるために上司の裁量が入る隙が少なく、比較的客観的かつ納得感のある評価が可能です。

4. 教育:自主的なスキルアップが求められる

4つめの違いとして、人材の教育に対する会社の姿勢の違いが挙げられます。

メンバーシップ型では、全社的な研修など、長期的な育成の考えから積極的に教育の施策を行うことがいえます。

それに対し、ジョブ型では自主的なスキルアップが求められ、企業はそれに対して積極的な介入を行わないということがいえます。

5. 採用:ポストや職務に空きができた場合

5つめの違いとして、採用活動が行われるタイミングの違いが挙げられます。

メンバーシップ型では、日本で行われているように新卒一括採用が多くを占め、その人材を長期で教育することによって生産性を上げるという目的をもっています。

それに対し、ジョブ型では職務に対して何らかの空きが生じた場合や新規事業などによって新たに職務が発生するケースがほとんどで、そこでは企業側が求めるスキルのレベルや知識の基準を満たしている必要があります。

ジョブ型雇用の事例

以上のように、ジョブ型の概念的な面や他の雇用形態との違いを解説してきましたが、ジョブ型雇用は実際の企業にはどのように導入されているのでしょうか。ここでは3つに分けて解説していきます。

1. 株式会社日立製作所

株式会社日立製作所(以下:日立)は、国内で5位の家電シェアを誇り、グローバルに事業を展開している家電を主軸とするメーカーです。

日立では、2021年4月からジョブ型雇用を導入する方針を打ち出しました。

それ以前はメンバーシップ型を採用していた日立ですが、ホットなマーケットに近い点から2014年に本社機能をロンドンに移すなど、グローバル化が進んでいました。

その中で、地球規模で社員が行き来する時代になったことで、グローバルに統一された人事制度の必要性を感じ、数年前からジョブ型への移行の準備が進んでいたとのことです。

特に、中高年層の社員の給与が割に合わなくなることをメンバーシップ型の一番のネックになっていることから、役割や職責の大きさに応じてポストに対して給与を支払う「グローバルグレーディング制度」を導入し、その解決を図っています。

参考:対談「ジョブ型雇用」とこれからの人材マネジメントその1 「ジョブ型雇用」の定義 – Executive Foresight Online:日立( https://www.foresight.ext.hitachi.co.jp/_ct/17419376) 2021年1月4日

2. 富士通株式会社

富士通株式会社(以下:富士通)は、PCなどのハードウェア製品から、ソフトウェア、企業へのDX支援などテクノロジー系に幅広い事業領域を持つ企業です。

富士通では、2020年4月から幹部社員にジョブ型人事制度を導入し、2021年4月より全社的なジョブ型人事制度の導入を開始しています。

富士通においても日立と同様に、グローバル化から全社的に統一された基準による人事制度を用いることを目的に日本国内においてもジョブ型雇用が導入されています。

具体的には、定量的な規模の観点、レポートライン、難易度、影響力、専門性、多様性などの観点、職責の大きさ・重要性の観点から格付けされる「ジョブ」(職責)をFUJITSU Levelと呼び、そレに基づいて給与を支払うというシステムになっています。

参考:評価・処遇と職場環境整備:富士通( https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/employees/system/

3. 株式会社資生堂

株式会社資生堂(以下:資生堂)は、化粧品市場における国内No.1のシェアを持ち、海外にもその流通を広げる化粧品メーカーです。

資生堂では、「真の意味での適材適所」を勧めるために2015年から導入されていた役割等級制度を発展させる形で「ジョブグレード制度」の導入を進めています。

20以上のジョブファミリー(領域)と、それぞれのジョブディスクリプションを設計し、同じジョブファミリーの中で役割・グレードに応じて期待されるジョブを明確に定義しています。

2021年から国内の一般社員に対しても「ジョブグレード制度」が本格的に導入されており、2022年には国境を越えての異動やキャリアアップを効率的・効果的に実現するためにグローバルグレード制度の導入を行うとしています。

参考:統合レポート2020|資生堂グループ企業情報サイト(https://corp.shiseido.com/report/jp/2020/value/people/?tab=1

まとめ

本記事では、ジョブ型雇用の定義や背景、メリット・デメリット、導入事例について解説してきました。

不確実性の高い時代と呼ばれる現代において、より効果的な雇用形態のために、本記事で紹介したジョブ型雇用を採用することも有効です。

しかし、会社経営の個別性の高さから、自社に合った人事制度を導入することが第一に優先されるべきです。

メンバーシップ型とジョブ型の2項のみで考えず、折衷型など自社に合った制度を検討してみてはいかがでしょうか。

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