人事評価の3つの項目と3つの方法|目的・注意すべきエラー

人事評価とは?
人事評価とは、一定期間における従業員の貢献度や業績、仕事への姿勢、個人の能力などを査定する人事制度のことです。
一般的にこの際の評価結果が、昇格・昇進や報酬査定に反映されます。
また、人事評価の基準や項目を明確に定めることで、企業としての方向性を社員に示すという効果もあります。
「人事考課」という言葉もありますが、ほとんどの場合「人事評価」と同じ意味で用いられています。
人事評価の目的
人事評価は、昇格や給料の査定をすることが目的だと思われがちですが、この他にも大切な目的があります。
人事評価の目的は、主に以下の4つにまとめられます。
- 会社の方針や理念を反映した評価基準を伝ることで、それに基づきどのような行動や成果を従業員に期待しているかを理解してもらうこと
- 従業員の行動や成果、能力を適正に評価することで、従業員の成長を促すこと
- 従業員に適切な給与と役職を与えることで、従業員のモチベーションを高めること
- 従業員の適性や職務能力を的確に把握して、人材配置の最適化を図ること
これらの目的を達成するためには、適切な基準や方法を用いて人事評価する必要があります。
人事評価の基準となる3つの評価項目
人事評価では「成果・業績評価」、「能力・プロセス評価」、「情意評価」これら3つの指標を基準として評価することが一般的です。
評価の際は3つの基準をバランス良く評価する必要があります。そして全てをバランスよく評価した上で、職務内容によってそれぞれの基準の重視ポイントを変えることで正確な評価ができます。
1. 成果・業績評価
基準となる評価項目の1つ目は、成果・業績評価です。
成果・業績評価は、一定期間中の業務の成果や結果に基づいて従業員を評価することです。
特徴として、定量的に数値化することが比較的簡単であり、明確に数値化することで客観的に把握しやすくなる点があります。
具体的な項目の例として以下が挙げられます。
- 仕事の質(仕事の正確さ)
- 成果達成までのスピード・効率性
- 対応案件数
- プロジェクト全体への貢献度
- 最初に設定した目標の達成度
成果・業績評価のメリットは、分かりやすい基準を設けやすいため、従業員は昇進や給与アップを目指して、成果・業績を向上させようと努力することです。
デメリットは、結果までのプロセスを重視しないため、高い能力があっても社会情勢など自分ではどうしようもない外的要因によって業績を上げられなかった従業員の査定が低くなり、不満に繋がってしまうことです。
この対策として、最近はプロセスも重視する評価制度であるである、「パフォーマンスマネジメント」を導入する企業が増えてきています。
パフォーマンスマネジメントについて、詳しくはこちらをご覧ください。
2. 能力・プロセス評価
基準となる評価項目の2つ目は、能力・プロセス評価です。
能力・プロセス評価は、成果・業績評価と異なり、実績に関係なく社員が業務をするために必要とされるスキルや知識の程度を評価することです。
特徴として、定量的に数値化することが難しく、数値で計測が難しい能力を評価する点があります。
具体的な項目の例として以下が挙げられます
- 理解力
- 企画力
- 実行力
- 改善能力
- 折衝能力
能力・プロセス評価のメリットは、長期的な視点で評価するため、成果・業績評価で見落とされがちな個人のスキルや努力、成長性などを評価できることです。
また、裏方に徹したり、大きなトラブルを回避したりなど、売上には現れないが大きな貢献をしてくれた社員を正しく評価できるメリットもあります。
デメリットは、評価基準の数値化が難しいため、評価のための手間が大きく、評価する側の評価スキルによって評価結果に差異が出やすいことです。
3. 情意評価
基準となる評価項目の3つ目は、情意評価です。
情意評価は、業務に対する姿勢や勤務態度を評価することです。
特徴として、定量的に数値化することが難しく、立派な業績があったとしても勤務態度に問題があれば評価は下がります。
具体的な項目の例として以下が挙げられます。
- 規律性
- 協調性
- 積極性
- 責任感
- 思いやり
情意評価のメリットは、能力・プロセス評価と同じく、成果・業績評価において見落とされがちな部分を評価できることです。
また職種や役職に関係なく、企業が求める人物像の基準を示せるため、企業の特色を決められることもメリットです。
デメリットは、評価者の主観が混じりやすいため、評価エラーが発生しやすいことです。
評価エラーはこの記事の後半で詳しく解説します。
人事評価に使える3つの評価方法
ここでは人事評価で実際に活用できる具体的な3つの評価方法を紹介します。
1. MBO評価(目標管理制度)
評価方法の1つ目はMBO評価(目標管理制度)です。
MBO評価は、個人またはグループで目標を設定し、その達成度によって評価します。
MBO(Management by Objectives)は、「目標による管理」「目標管理制度」と訳され、1954年に経営学者であるピーター・ドラッカーが提唱しました。
個人の目標と成果がはっきりと数値で示されるため、評価に納得してもらいやすいという特徴があります。
メリットとして以下が挙げられます。
- 各従業員の全社への貢献度がわかりやすいこと
- 自主的な従業員の職務能力向上が期待できること
- 従業員のモチベーション向上が期待できること
目標と成果がはっきりと数値で表せるため、各従業員の会社の目標に対する貢献度を正確に測定でき、納得感や信頼性の高い評価ができます。
また、具体的でわかりやすい目標を掲げられるため、その目標達成に向けて従業員が自律的に職務能力を向上させることや、目標達成によって業務に対するモチベーションが向上することが期待できます。
デメリットは以下が挙げられます。
- プロセスが軽視されやすいこと
- ノルマ管理によって社員の疲弊を招きやすいこと
目標に対する達成度で評価が決められるため、結果ばかり見られてしまい、その結果にたどり着くまでのプロセスが評価されづらい面があります。
また、わかりやすい目標はノルマという形で提示されることが多いですが、このノルマに縛られて心や体が疲弊してしまう従業員が現れないように注意することが大切です。
2. コンピテンシー評価
評価方法の2つ目は、コンピテンシー評価です。
コンピテンシー評価は、職務ごとに能力や業績が高いハイパフォーマー社員に共通する行動特性(コンピテンシー)をもとに基準を設定して評価します。
評価基準が明確なので客観的で納得感の高い評価が可能という特徴があります。
メリットとして以下が挙げられます。
- 公正な評価ができること
- 多面的な評価ができること
- 従業員に経営ビジョンが浸透できること
コンピテンシーによって目指すべき理想像が確立されるため、上司との相性や男女差などによる評価の差を無くせ、公正な評価ができます。
また成果やプロセスの評価に加え、コンピテンシーの中に独自の基準を設けることで、多面的な評価ができるようにもなります。
さらに、理念・バリューを反映したコンピテンシーを作り上げられれば、自然に従業員へ経営ビジョンが浸透させられます。
デメリットは以下が挙げられます。
- 時間や労力がかかること
- 修正のコストが高いこと
コンピテンシー定義やモデル作成は1つ1つの会社に適したものが存在するため、他社を参考に作れません。
また、評価モデルの妥当性を仮説検証する必要があります。
そのため多くの時間や労力がかってしまうので、気軽に取り組み始められないという難しさがあります。
そしてコンピテンシー評価を導入した後も、コンピテンシー評価は評価基準に柔軟性がなく、外部環境の変化によって生じる修正のコストが高いという難しさが存在します。
このようにコンピテンシー評価は導入前も導入後も、多くの労力を必要とします。
しかし、その分得られる効果も高いため、多くの企業や地方公共団体などが導入しています。
3. 360度評価(多面評価)
評価方法の3つ目は、360度評価です。
360度評価は上司だけでなく、一人に対してさまざまな階層の社員からフィードバックをして評価することです。
メリットとして以下が挙げられます。
- 強み・弱みの把握に繋がること
- 信頼性の高い課題を特定できること
- 評価に対する不満が少なくなること
様々な階層の多くの人からフィードバックをもらえるため、評価対象の強みや弱みの把握に繋がります。
また、自己評価と他者評価を比較することや、多数からの同じ指摘があれば、信頼性の高い評価対象者の課題を特定できます。
さらに、多くの人からフィードバックをもらえるため、評価の客観性が担保され、評価に対する不満を小さくすることが期待できます。
デメリットは以下が挙げられます。
- 実行に多大な労力が必要になること
- 評価の偏りが発生しやすいこと
- 社員同士で互いに評価を良くし合う可能性があること
まず、360度評価では階層の違う多くの人を巻き込んで評価してもらうため、評価プロセスが複雑になり、評価する人の選定や集計などをする必要もあるため、実行に多大な労力が必要になってしまいます。
また、選択した評価者によって評価の偏りが発生しやすかったり、自分への高評価の見返りを求め、社員同士で互いに評価を良くし合う可能性があるなど、評価の仕組みが機能しない可能性を孕んでいます。
人事評価面談3つのポイント
評価する際の人事担当者1番の力の見せ所といっても過言ではない、人事評価面談で気を付けるべき3つのポイントを紹介します。
1. 従業員が話しやすい環境をつくる
人事評価面談のポイント1つ目は、従業員が話しやすい環境をつくることです。
話しやすい環境を作るためには
- 拡大質問(オープンクエスチョン)
- 肯定質問
- 相槌
以上の3つが大切です。
拡大質問とは、二者択一で返答できる質問ではなく、自由に返答できる質問をすることです。
「Aですか?Bですか?」といった、選択肢を与える「限定質問」は、圧迫感を与えてしまうため人事面談ではふさわしくありません。
「どうですか?」や「なぜですか?」と質問して、選択肢に縛られずに回答できるようにすることで、多くの対話が可能になります。
肯定質問とは「うまくいった要因は何?」や「どのようにすれば成果が出たと思う?」など、肯定的な言葉を使って質問することです。
「なぜうまくいかなかったのですか?」といった否定質問は限定質問と同じく、圧迫感を与えてしまうため人事面談ではふさわしくありません。
2. 前期のフィードバックを伝えて納得感を得る
人事評価面談のポイント2つ目は、前期のフィードバックを伝えて納得感を得ることです。
人事評価面談では、従業員の前期の結果に対しての会社側の評価を伝える必要があります。
その際に、結果だけをただ伝えるのではなく、前期の結果に対するフィードバックをしましょう。
フィードバックによって、評価を受ける側はどのような評価基準でどういった評価がされたのか分かるため、納得感を得られます。
さらに、評価結果を伝える側は、結果が良いものであっても悪いものであっても気にせず、プロセスの中で何が良くて何が悪かったのか一緒に理解しようとする姿勢を持ちましょう。
また、疑問や不満があれば面談の場で話を聞き、解消することも大切です。
これによりさらに会社からの評価に納得感が得られます。
3. 来期の期待を伝えてモチベーションを向上させる
人事評価面談のポイント3つ目は、来期の期待を伝えてモチベーションを向上させることです。
上記の通り、前期の結果を伝えた後に、来期の期待も伝えるようにしましょう。
期待を伝えることで、従業員のモチベーション向上に繋がります。
期待することが有効であることは、科学的にも証明されていて、そのことを「ピグマリオン効果」と呼びます。
ピグマリオン効果とは、教育心理学における心理的行動の1つで、教師の期待によって学習者の成績が向上した実験によって確立されました。
一方で教師が期待しないことによって学習者の成績が下がる「ゴーレム効果」も存在し、期待を伝えることの大切さがわかります。
また、事前に来期に期待することを用意しておいて、面談の場でスムーズに伝えられるようにしておくと良いでしょう。
注意すべき人事評価エラーとは
人事評価は感情を持った人間が他の人間を評価する行為であるため、評価する側の人間が持つ主観や先入観、偏見などが入ってしまうことが多くあります。
これらのバイアスを人事評価エラーといいます。
特に定量的に数値化することが難しい能力・プロセス評価や情意評価で人事評価エラーは発生しやすい傾向があります。
どれだけ対策しても人間が人間を評価する以上、人事評価エラーを完全に無くすことは難しいです。
しかし、人事評価エラーの発生原因を知り、評価にはバイアスが入りやすいことを念頭に置いておくことで、少しでも公正な評価へ繋げられます。
1. ハロー効果:顕著な特徴に影響された評価
人事評価エラーの1つ目は、ハロー効果です。
ハロー効果とは、評価する際に評価対象が持つ顕著な特徴に影響を受けて、他の特徴についての評価が歪められてしまう現象のことです。
人事評価の際には、評価に関係のない出身大学や過去の実績といった評価対象が持つ顕著な特徴に影響され、現在の評価を歪めないように気を付けましょう。
評価対象が有名な大学の出身であったり、過去にどれだけ大きな実績を残していたとしても、それによって現在の評価を上げる理由にはなり得ません。
ハロー効果によって、現在あまり成果を出せていない人を高く評価してしまうと、他の従業員の不満につながってしまいます。
「自分は頑張っているのに、適正な評価をされていない」という不満が溜まってしまうと、離職に繋がってしまうことがあるため、注意が必要です。

- 人事評価の重要性とは?
- 3人中2人が人事評価に不満を持つのはなぜなのか?
- 人事評価への不満が顕在化する真因は何か?
- 評価制度を変更せずとも、人事評価の納得度を高める方法は何か?

2. 寛大・厳格化傾向:私情に影響された評価
人事評価エラーの2つ目は、寛大・厳格化傾向です。
寛大・厳格化傾向とは、私情に影響されることで評価が甘くなったり厳しくなったりすることです。
寛大化傾向の例として、部下によく思われたい気持ちや、低い評価をすることで部下に恨まれたり文句をいわれたりしたくないという気持ちによって、甘い評価をしてしまうことが挙げられます。
厳格化傾向の例としては、評価者が完璧主義者だったり、教育熱心すぎるあまり部下を育てるためには厳しくしなければいけないと考えたりすることで、評価が低くなりすぎてしまうことが挙げられます。
3. 中心化傾向:全員が平均に集まる評価
人事評価エラーの3つ目は、中心化傾向です。
中心化傾向とは、評価が平均値に偏ってしまうことです。
中心化傾向が発生する理由として、すべての評価対象者に嫌われたくないという思いから、無難な評価をしてしまい、評価が中間値に集まりすぎてしまうことが挙げられます。
評価が中心に集まりすぎると、社員1人1人の特徴が把握できなくなり、適切な人事配置や昇格・昇給ができなくなってしまいます。
4. 論理誤差:推測による評価
人事評価エラーの4つ目は、論理誤差です。
論理誤差とは、根拠のない思い込みや推測で評価してしまうことです。
例として、成績や業績が良いから情意も積極的なはずだと勝手に推測し、評価基準を無視して全体的に高い評価を下してしまうことが挙げられます。
評価に至った基準が曖昧なため、評価される人々の評価に対する納得感が低下してしまうことが考えられます。
5. 対比誤差:評価者が基準の評価
人事評価エラーの5つ目は、対比誤差です。
対比誤差とは、自分の基準と比較して評価してしまうことです。
例として、評価基準を無視して、評価者自身の能力と評価対象者との能力を比較して評価を下してしまうことが挙げられます。
評価者の能力と、評価基準が離れている場合、適切な評価が下せなくなってしまいます。
6. 近隣誤差:短期的すぎる評価
人事評価エラーの6つ目は、近接誤差です。
近接誤差とは、評価対象者の直近の様子だけを見て評価してしまうことです。
例として、1年間の評価期間を通して俯瞰的に評価しなければいけない時に、期末の業績や能力だけを見て評価してしまうことが挙げられます。
近接誤差が起きてしまう理由の1つとして、ピーク・エンドの法則という心理学の理論があります。
ピーク・エンドの法則とは、人間はある経験した出来事に対して、絶頂期(ピーク)と最後(エンド)の記憶が最も鮮明に残り、影響を受けやすいというものです。
近接誤差に陥らないためには、常日頃から定期的に評価をしてその結果を残しておき、期末にそれらを振り返って平均を出すなど、全体を通して評価する仕組みを工夫する必要があります。
まとめ
人事評価は一見簡単そうに見えますが、様々な項目や人事評価エラーが存在し、奥が深く難しい仕事です。
この記事が少しでも人事評価に役立てられれば幸いです。